インプラントの安全性
インプラント治療は近年、目覚しい発展を遂げました。
現在は完全に確立された治療法と確信できます。
「インプラントが良いというのは、わかっているんだけど・・・」と感じながら、 踏み切れないのは 大きく分けて3つの障壁があるからと考えます。
1つは安全性の不安、1つは処置に対する不安、そして、もう1つは経済的な問題です。
ここではインプラントの安全性についてお話します。
2つ目のインプラント処置に対する不安については次の インプラントって痛い? で説明します。
インプラントは外科的処置を伴い、非生体材料を入れる治療です。
外科的治療に対する安全性
体内に異物を入れることに対する安全性
この2つについて詳しく述べていきます。
1.外科的治療に対する安全性
「口の中を切って、骨に穴を開けるなんて痛そう。」
「ドリルを使うと聞いただけで怖い。」
「インプラントの事故を新聞で見たけど、大丈夫かしら。」
このような思いが多かれ少なかれ、皆さんにあることと思います。 私が言えることは以下のことです。
「現在のインプラント治療は完全に確立された治療です。
決して簡単な治療ではありませんが、術前の診査診断を
しっかり行えば、難しい治療ではありませんので、
過度の心配は無用です。」
残念ながら、この世に100%成功する治療はありません。
インプラント治療に限らず、医科においても、治療がうまくいかないことはあります。
現在、インプラント治療の成功率は90%以上なので、他の治療に比べ、成功率の高い治療と言えるでしょう。
失敗の内容が重要
・インプラントのオッセオインテグレーションがうまくいかなくて、インプラント治療が失敗したのか。
・器具により、神経や血管を損傷して医療事故になってしまったのか。
この2つには大きな違いがあります。
インプラント治療がうまくいかなかっただけであれば、適切な再治療を行えばよいのです。
1回の成功率が90%なら、2回行えば、成功率は99%ということになります。
最終的にはきちんとしたインプラント治療が成功します。
詳しいことはインプラントの成功率をご覧下さい。
なので、もちろん100%成功するに越したことはないですが、インプラント治療が失敗しただけであれば、それほど恐れることはありません。
しかし、医療事故はダメです。
インプラント治療は元々、命に関わる病気の治療ではないのだから、不可逆的な事故は絶対に避けなければなりません。
我々インプラント医は肝に銘じて、常に細心の注意を払う必要があります。
と、少し脅かしてしまいましたが、実際のところは心配無用です。
なぜなら、インプラント治療は神経や血管に近いギリギリのところを狙う治療ではないからです。
たまに骨が少ないとテクニックを必要とするケースもあります。
それでも、術前にしっかりレントゲンやCTで診査をすれば、大丈夫です。
骨の状態や神経や血管の位置がわかるので、問題は起こりにくいと言えます。
もし、インプラント治療において大きな問題が起こっている場合は、インプラントシステムに問題があるわけではなく、術前の診査診断、術中の手技のどちらかに問題があったということです。
よって、経験を積んでいるインプラント医で治療を受ける場合は過度の心配は無用です。
それでも、まだ心配という方は術前診査診断の重要性をご覧下さい。
術前にどのように詳しく診査診断して、インプラントを行っているが説明しています。
心配性の方もこちらをごらんになれば、イメージが沸き、安心するでしょう。
体内に異物を入れることに対する安全性
「体の一部として、非生体材料である金属を利用すること」は非日常であり、誰でも多少の違和感があることと思います。
「そんなもの体に入れて大丈夫?」
「金属アレルギーの心配はないの?」
でも、実際はそんな心配は無用です。
それはインプラントの材料であるチタンは生体親和性の非常に高い金属だからです。
メガネのフレーム、ゴルフクラブ、車体の一部などにも使われているので、皆様もご存知でしょう。
チタンは歯科用インプラントよりも、医科領域で歴史があり、たくさん使われています。
例えば、骨折したときに使うプレートやネジはチタンでできています。
人工股関節、人工膝関節はもちろん、人工心臓弁や脳動脈瘤用クリップにも利用されています。
心臓や脳に埋め込み、何十年も機能していると考えれば、安心感も沸くのではないでしょうか。
なぜ、チタンは生体親和性が高いかと言うと2つの理由があります。
1つは金属として非常に安定していることです。
空気中では不動態として働くため、金やプラチナと同等の対蝕性を持ち、酸や食塩水に対しても室温では全く錆びないとされています。
そして、もう1つは金属アレルギーになる可能性が限りなくゼロに近いと言うことです。
非生体材料なのでゼロとは言えませんが、チタンアレルギーの症例が出たら、学会発表ものです。
こんな生体親和性が高いチタンが骨と結合するオッセオインテグレーションを持った金属なのですから、歯科用インプラントには最適な素材といえます。
これでインプラント治療の素材としての安全性はご理解いただけたと思います。
口の中は過酷な環境です!
インプラントをするに当たり、安全性ということで、もう1つお話ししたいことがあります。
それは口の中に行うインプラント治療の特異性についてです。
先ほど、チタンは脳や心臓にも埋め込んでも安全な金属であるという話をしました。
でも、実は、脳や心臓と口の中には大きな違いがあります。
それは感染のリスク、ばい菌が入りやすいかどうか、です。
心臓や脳は生命の維持に直結する重要な臓器なので、外の世界から遮断され守られています。
だから、細菌が入り込み、チタンが感染する心配は非常に少ないと言えます。
一方、口の中はどうでしょう。
インプラントの歯根部は骨の中ですが、支台部、上部構造は口の中とつながっています。
口の中は100億個の常在細菌がいて、昼夜、食物が入ってくる過酷な環境です。
歯ぐきに炎症のない状態であれば、歯ぐきとインプラントの支台部はぴったりくっついて、口の中の細菌が歯根部に行くことはありません。
しかし、口腔衛生の悪い状態が続くと歯ぐきに炎症が起こります。
すると、歯ぐきとインプラントの付着ははずれ、歯根部に細菌が侵入し、感染が起こります。
これをインプラント周囲炎といいます。
インプラント周囲炎は重篤化すると、インプラント周囲の骨が破壊されるため、インプラントの喪失につながります。
インプラントは口の中に行うという特異性を持っています。 だから、感染が起きないように管理する必要があります。
管理といっても、特別なことをするわけではなく、ほとんど自分の歯と同じです。
プラークコントロールと咬合の変化への対応です。
インプラント治療はきちんと行えば、非常に安全性の高い、確立された治療です。
しかし、口の中に入れる治療なので、ばい菌が入らないように気をつける必要があるのです。

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