インプラントの構造
インプラントの歴史上では様々なタイプのインプラント構造が存在しました。
しかし、大まかな構造による試行錯誤の時代は終焉を迎えました。
ここ20年はほとんどスクリュータイプ、一部シリンダータイプとなっています。
スクリュータイプのインプラントを中心に構造、歴史、違いを詳しく説明していきます。
その1 歯根部
専門的にはフィクスチャー、インプラント体などと言われます。
インプラントにおいて、最も重要なのがこの歯根部となります。
インプラントの進化はそのまま、歯根部の進化と言い換えることができます。
インプラントの歴史は「インプラントと骨を強固に長期間安定して結合させる研究の歴史」と言っても過言ではないでしょう。
過去、そして、現在もより良いものを求めて、研究が続けられています。
インプラントにおける最大の転帰は1952年にスウェーデンで起こりました。
ブローネマルク教授によって、チタンが骨と結合することが発見されたのです。
これをオッセオインテグレーションといいます。
チタンがインプラントに応用されるようになってから、インプラントが確実に骨と結合するようになり、飛躍的に予知性が高くなりました。
これが今のチタンインプラントの誕生です。
現在ではインプラントがチタンでできていることは当然のことで、骨と接する部分の表面性状について、各メーカーが技術を駆使し、しのぎを削っている状況です。
私の考えとしては、現在ではどのメーカーのインプラントを使っても、しっかりオッセオインテグレーションすると感じています。
メーカーの数も年々増え、300社近く存在します。
競争になれば、質が上がり、価格が下がるので非常に好ましいことです。
松野歯科ではアストラテック・インプラントを主に使っています。
骨が少ない場合はHA(ハイドロキシアパタイト)コーティングのものが安心ですが、
他の場合は歯根部に関して、大きく違いは感じていません。
むしろ、支台部との連結に各メーカー個性があるので、部位、用途で使い分けをしています。
その2 支台部
専門的にはアバットメントと言われます。
歯根部と上部構造を連結する結合部になります。
各メーカー、作り方によって、形、素材が様々です。
歯根部と支台部が一体になり、結合部のない1ピースタイプのインプラントもあります。
結合部には細菌が定着しやすく、インプラント周囲炎の原因になります。
また、結合部のねじが緩み、脱離や破折が起こることもあります。
そういう意味では1ピースタイプは優れたインプラントシステムです。
しかし、骨造成や上部構造の修正が困難なことから、適応症は限られています。
支台部の重要なポイントは細菌侵入とねじの緩み、この2つをいかにして最小限にするかです。
歯根部の開発が進み、オッセオインテグレーションの精度が高くなった今、各メーカーの開発はアバットメントへと移行してきた感じがあります。
精度良く、簡単に、そして、安価な支台部が様々な方法で研究されています。
アバットメントには大きく分けて3つあります。
既成アバットメント、削り出しアバットメント、カスタムアバットメントです。
メーカーが規格してある既成アバットメントが使えれば、最も精密で、コストも低く、手間も少なく、作ることができます。
1ピースタイプインプラントと同様、既製品は規格がしっかりしていて、安心です。
なので、私は診断、歯根部埋入のとき、既成アバットメントが使えるように積極的に狙っています。
しかし、自由度が低いため、適応できなければ、削り出しアバットメント、そして、1番自由度の高いカスタムアバットメントを使用します。
骨が少ない場合、理想的な位置に歯根部を埋入できないことがあります。
そのときはカスタムアバットメントで角度や深さの調節が必要になります。
素材はチタンが理想的ですが、鋳造できないなので、カスタムアバットメントの場合は
白金加金などの貴金属を使います。
また、前歯でオールセラミッククラウンを上部構造で使うときはジルコニアを選択します。
アバットメントの製作はバリエーションに富んでいて、1番重要でありながら、煩雑になりやすいと考えています。
その3 上部構造
インプラントに限らず、自分の歯にもあります、いわゆるかぶせ物です。
最終的に目に見えるところであり、ものを直接噛み切り、噛み砕く部分です。
上部構造はインプラント各メーカーとは関係なくその歯科医が良いと考えるやり方、素材を使うことになります。
耐久性と見た目、精密度、費用がものにより変わってきます。
上部構造として、一般に多いのはセラミック冠と貴金属冠です。
セラミック冠は見た目、精密度、ともに優れたかぶせ物です。
しかし、強い力がかかると割れやすいというリスクがあります。
インプラントは自分の歯とは違った考えを基にかぶせ物を製作する必要があります。
自分の歯は歯根膜があるため、生理的動揺があり、咬合時30μm沈むといいます。
一方、オッセオインテグレーションしたインプラントは骨に完全に結合するため、ほとんど遊びがなく、咬合時5μm沈むかどうかです。
インプラントの上部構造としてセラミック冠を選んだとき、力がセラミック冠に集中して、割れるリスクが高くなります。
よって、咬み合わせや噛む力によっては、1番力のかかりやすい最後臼歯には咬合面を金属で作る必要があると考えています。
咬み合わせの調整も歯根膜分の25μmを考慮する必要があるため、自分の歯だけの咬合調整より、精密に慎重に行う必要があります。
